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東京地方裁判所 昭和45年(モ)18298号 判決

理由

一  いずれも債権者所有にかかる本件土地および同地上の本件建物につき債権者主張のとおりの抵当権が設定されたこと、これにもとづいて昭和四四年一月二七日債務者から右土地、建物の双方につき任意競売の申立がなされ、債務者が同年六月一六日本件土地二、八〇〇万二、〇〇〇円、本件建物三、一〇〇万でその双方を競落し、同月一八日競落許可決定を得たこと、ところが、同年二月二五日ころ本件建物が債権者により取りこわされて存在しなかつたため右許可決定は取消され、あらためて本件土地についてのみ最低競売価格六、八八〇万円と定められて手続が進められ、債務者が同年一一月一七日これを七、七〇〇万円で競落し、同月一九日競落許可決定を得、昭和四五年七月二二日その旨の所有権移転登記がなされたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、右の事実関係のもとでは法定地上権の成立はこれを認めるに由ないものと解するのが相当である。けだし、法定地上権は、抵当権設定当時同一の所有者に属していた土地とその地上建物が、競売の結果異なる所有者に帰属するに至る場合に、建物所有者もしくは建物競落人に土地の利用権を与えることによつて建物を保護するために認められた制度であるし、とくに本件の場合には、土地、建物の双方が共同抵当とされていて抵当権設定後になんらかの事情で建物が滅失した場合には、少くとも土地については更地としての価値を有することが期待されているというべきであり、しかも取りこわし当時の建物所有権はいぜん抵当権設定者に属していたのであるから、前記競売手続が土地だけを更地として評価して競売したことをもつてとくに違法とすることはできず、むしろ、右のようにして競売手続を遂行し、競落にあたつて法定地上権の成立を否定することは、抵当権者の利益に合致するし、法定地上権を生ずるような建物の存在を予知しえない競落人に不測の損害を与えることを避けられる反面、地上権の保護をうくべき抵当権設定者にとつても、法定地上権が成立しないことによる不利益は補われているものとみるべく、結果からみても妥当であるといわなければならないからである。

三  したがつて、債権者主張の被保全権利は疎明がないことになり、保証をもつてこれにかえるのも相当でないので、債権者の申請を認容した主文掲記の仮処分決定を失当として取消して本件仮処分申請を却下する。

(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 落合威 太田豊)

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